ものづくり・職人技
2021.01.05

技と経験値と発想の出会い
Creators Meet TAKAOKA
プロトタイプ発表

2021.01.05

高岡に雪が降った師走のある日、いよいよ各チームから今取組みにおけるプロトタイプが届けられた。10月のキックオフツアーからわずか2ヶ月にも関わらず、発想が着実に具現化されているサンプルや音源の数々は、いずれも出会いから始まったものづくりの歓びに満ちていて、率直に「欲しく」なるものばかり。さっそく、順番に紹介していこう。

能作×Hamanishi DESIGNが取り組んできたのは「燭台」。

「溶かして」つくる高岡銅器の鋳造工程が、視覚的に表現されたポップなデザインが特徴だ。溶けてみえる上部は鏡面加工、土台となる下部は鋳肌そのものと、真鍮の違う表情がひとつの製品に同居している。

蝋燭のロウが溶けて溜まっていく姿はどことなく野暮だが、この燭台なら溶けたロウと燭台が連続的につながって、美しく感じられそう。

「燭台は製品としてはあるんですが、うまく展開していくものはこれまでにはなくて。販路の広がりをつくれたら、すごく面白くなると思います(能作:磯岩さん)」

「能作さんといえば錫のイメージが強く真鍮製のものは少ないので、この燭台が真鍮の商品を代表するものになったら嬉しいなと(Hamanishi DESIGN:鎌田さん)」

デザインを主に担当したHAMANISHI Design代表の濱西さんは、プロダクト開発のスピード感に驚いたと言う。

「能作さんのデザインリテラシーが凄く高いんだと思うんです。ぼくらのディティール、マテリアルを大事にしたいという想いと、長い歴史を現代的な解釈で形にしたい、それらの意図を汲み取った製造をしてくださっている。理解がないと、鋳肌と鏡面加工の同居って面倒臭いはずですから。ここまでスムーズすぎて、怖いくらいです。笑(HAMANISHI Design:濱西さん)」

このチームでは和蝋燭も開発中で、燭台と蝋燭のセット販売を検討している。仏具としてではなく、文具やインテリアといった売り場で、「炎を眺める時間」をひとつのライフスタイルとして提案していきたいという。

漆器くにもと×三井化学MOLpからは3つのラインでの商品・企画案が提出された。

サンプル試作が進んでいるのは、経年変化を楽しむ漆のアクセサリー「縁EN・輪WA」。

三井化学が誇る技術力によって開発された、海のミネラルから生まれた樹脂「NAGORI™️樹脂」と、植物由来のウレタン樹脂「STABIO®️」で成型したアクセサリーに漆を塗布。太陽光によって経年変化する漆の魅力を、身につけるものから伝えたいという。

NAGORI™️樹脂は陶器のような温かみと重さ、STABIO®️は柔らかさと透明性が特徴。それらと漆との組み合わせによって、木地を基本とするこれまでの漆製品にはない、重みや透け感といった新たな質感の創造が期待される。色は朱、黒、溜塗、白檀塗の4色で、小さな球状のものと、大きな輪っかのタイプの2種類で展開する。

「この素材に漆を乗せて何の意味があるのか?という点でずっと悶々としてきました。プラスチックと一言で片付けられない、漆に対抗できる素材でなければいけない。今回ひとつ「重さ」を付与することで、どういった反応になるのか知りたい(MOLp:宮下さん)」

「漆器業界にはプラスチック=偽物のイメージがありますが、プラスチックと一言に言っても様々なものがある。生分解性や熱に強いなど様々な機能を付加できるので、そこに工芸の精神を加えて、今の生活に対応できるものを目指せたら面白いなと。漆器だからいいんじゃなくて、素晴らしいものだから欲しい、その第一歩として樹脂の良いものがつくれたら(漆器くにもと:國本さん)」

その他、和紙と三井化学のポリオフィレン合成パルプ「SWP®️」と漆のコラボレーションアイテム企画、漆器くにもとの地場ネットワークをいかした金属製の防音ボードの台座製作も進行している。

アクセサリーはスケジュールが間に合えば、来年3月に青山で行われるMOLpの展示会でお披露目、先行予約を受け付ける予定だ。

竹中銅器とTakashiTeshimaDesignから届いたのは、4つの方向性から表面加工の可能性を探る取り組みの数々。一旦すべてのアイディアを具現化し、そこから製品化に進めるものとそうでないものとを精査していくという。

Re Produce:「つくらないでつくる」「解体と再構築」といったテーマで、既存の香炉や花器などを切断し、いくつかの製品に再構築する。

TO YA MA :黒部渓谷を表現したトレイと箸置きのセット。トレイの青は銅の緑青、箸置きの赤は漆。高岡の産地内でつくりだせる色や質感の幅広さが感じられる。

Still we live:外側を磨き上げたソリッドな塊の中に、ひび割れた内側を緑青で仕上げた花器。ヒビの入った金属塊にはかなりの迫力がありそうだ。使いながら緑青の色を育てていく面白さも。

Gradation:鏡面加工から緑青による着色の色だけでない質感のグラデーションをみせるもの。花器またはタンブラーを想定している。

「職人さんがムラだと感じる製品ごとの色の違い、グラデーションのばらつきが、かえって一点ものとしての魅力に感じます。とにかくおもしろくて膨らませすぎたところもあるんですが、素晴らしいスピード感で試作を進めていただいるので、まずはすべてのイメージを形にしたいです(TAKASHI TESHIMA DESIGN:手嶋さん)」

「慣例的にやろうとしないこと、思い込みでやならないことを手嶋さんからやってみようといわれて、試して気づかされることがすごくありました。今回色々とトライしてみて、全てが今後のノウハウになるととらえています。グラデーションなんて、ありそうでなかったことかもしれません。海外の展示会なども意識して、販路を考えていきたいと思います(竹中銅器:喜多さん)」

佐野政製作所とshy shadowのチームがつくるのは、三次元で表現した国旗のオブジェ「View Point」。

「イメージの枠外から来た、全く予想していなかったアイディアでした。絶対に世の中にない、凄く良い、ぜひやりたいと。独特なカーブや段状の形など、自由に形を作れる鋳造の良さも活きます。持った時の金属の重さも感じてもらえたら(佐野政製作所:佐野さん)」

写真は木型で、完成品は真鍮製を予定。着色はせずに、表面加工で色の違いを表現する。大きさは6cm×4.3cmほど。

NYで20年以上働き、今年1年は旅をしながら日本に滞在しているというshy shadowの芳村さん。現在は赤坂に居を構え、飛び込みでの販売交渉のための店舗リストを佐野さんと作成中だという。

「あちこち散歩しながらインテリアショップをまわってます。ファッションブランドもいいかもしれない。妻がアメリカ人なので、一緒に行くと格があがるんですよ。外国人が好む製品ですよって話もできる。笑。直接ドアを叩いていくのは抵抗ないので、行かない手はないかなと」

「こうしたものづくりの機会がずっと欲しかったんです。こうやって出会えて、光栄で感動しています。佐野さんも、木型の工房の方も、みんなそれぞれに専門分野を持つアーチストです。アーチスト同士が集まってつくるものって、自我にとらわれてない、きれいなものだなって思います」

「表情豊かなものなので、手に持って、あらゆる角度から彫刻的にみてほしい。ある物事を違う角度からみたらどうなるんだろうと、このオブジェが視野が広がるきっかけになれば(shy shadow:芳村さん)」

シマタニ昇龍工房×未音(ひつじおと)制作所から届いたのは、「おりんを使った楽曲」たち。

おりんを鳴らした音とおりん制作時の音(焼成音など)のみをプロセッシング(音の波形の一部分を切り取ったり、表情を変えたりすること)し、おりんをつくる過程をコンセプチュアルに表現した5曲の楽曲を制作する。

「おりんそのままの音と加工した音を組み合わせて、いろんな表情で表現しています。おりんの音は純粋音に近い、すごくきれいな波形を持ってるので、加工しても混ざり物のない、きれいな音になるんです(未音制作所:若狭さん)」

楽曲は全方向から音がまわって聴こえるような、5.1chサラウンド立体音響再生可能環境を想定。勝興寺でのオンラインライブ(観客を入れるかどうかは検討中)およびインスタレーションの発表を目指す。動画・写真のアートワークも制作し、CDと合わせて商品として流通するものにしたいという。

また若狭さんは同時期に金沢、高野町、東京でも別ユニットでの作品発表を予定しており、それらとの連携、さらにはフランス/ドイツのエレクトロミュージック、アートコンペティションへの応募も計画している。

「ずっとおりんを仏具ではなく楽器として提案したいと思っていたので、こういう機会をいただいて本当に嬉しい。録音の際には一番小さいおりんもすごくよく響いて、お寺の音響の良さにも驚きました。おりんをつくっている自分自身もパワーをもらう、心が豊かになる経験でした(シマタニ昇龍工房:島谷さん)」

「お寺にあんなふうにおりんが並ぶのは、芸術作品としても感動的な空間でした。みんなで耳を澄ませて、普段は聞き逃してしまうような音を聞こうとした、それも美しいことだったと思います。おりんの音には、比喩じゃなくて、浄化されるものがある。インスタレーションとライブで構成される勝興寺でのイベントを、全国の様々なお寺でもやっていけたら(若狭さん)」

未音制作所と高岡民芸のチームからは、「菅製のスピーカー」が届けられた。

写真は骨組みの状態で、これからそこへ菅が編み込まれていく。プロダクトデザインは、Vagueでのアートワークも担う黒野真吾さんが担当した。

「実際に見るとかなりの物量と存在感、高級感があります。モダンさのなかに民藝的な、土地から立ち上るような空気感も感じられて、ほんとうに格好良いですよ(若狭さん)」

「つくっていると、発想が基本的に「笠」から離れないんですね。スピーカーなんて考えつかないんです。突拍子もない提案をもらえてすごく嬉しいし、つくっていてもワクワクして、楽しいです。今回の提案でイメージの枠を取りさってくださった気がします(高岡民芸:中山さん)」

大量生産ができないため、今のところは展示会等における大きな取引の商談は考えていない。まずはwebサイトの作成と、ホテル・旅館や店舗への直接交渉をイメージしている。

欲しいと思う人は1年や2年待っても欲しい、それくらいの力を放つと予感させるフォルム。ものとしての美しさはもちろん、ものに適した健やかな流通のあり方も切り拓く製品になることを期待したい。

どのチームからも聞かれたのは、工房のものづくりに対する真摯さ、製品化における諸問題に対応する経験値への信頼、クリエイターの新鮮な発想に始まるものづくりの歓びといった声だった。

確かな技術・経験値と、知らないからこその発想が出会って、ひとつひとつの製品が高揚感のなかで生み出されている。そうした良い波長を持っている品は、求めている誰かにきっと届く。必要としている人に必要なだけ届き続ける、持続するサイクルがずっと紡がれていくことを静かに願った。

プロトタイプということで、価格設定や販路の詳細が決まっていくのはこの先のこと。その後にも展示会に出展したり、取り扱いの交渉があったりと、開発・制作から私たちの手に届くにはまだまだ長いプロセスを経る。

きっとどこかで目にするようになるだろう製品たち。もしも見かけたら、あのプロトタイプがこうなったのだと、高岡のこと、産地のこと、工房とデザイナーの皆さんの想いのことを思い出して、ぜひ手にとってみてほしい。

未音制作所×シマタニ昇龍工房・高岡民芸 photo by Shingo Kurono

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