富山は水が良いという。年間降水量が多く、山に降り積もる雪、植生自然度の高い森林、平野の水田と天然のダムがいたる所にあるため、1人当たりの水資源賦存量(理論上人が最大限利用できる水資源の量)は全国平均の4~5倍にのぼる※。川も多く、流れが急なために濁りにくい。川の多い土地には地下水もまた豊富にある。

水は酒造りに重要な要素で、洗米、仕込み、割水などに膨大な量の水をつかうため、昔から日本酒は水が豊富かつきれいな場所でつくられてきた。

若鶴酒造の創業は文久2年。散居村の風景が広がる砺波平野で、白山水系・庄川の伏流水を仕込み水に酒造りを行ってきた。日本酒に加えて北陸唯一のウィスキー蒸留所も持ち、それぞれの建物を時間を設けて見学者に案内している。大正蔵では各種商品の試飲ができ、高岡の伝統工芸品(能作、モメンタムファクトリーorii、天野漆器など)の酒器や、ウイスキーに漬け込んだ干し柿のアイスなどオリジナル製品も販売している。

大正時代需要拡大に応えるため建てられた越後杜氏による酒造りが行われていた大正蔵。平成25年に歴史的建造物として改修された。
内部は資料館と多目的スペースになっていて、お酒の試飲もできる。奥にあるのはかつての蔵の扉。

かつて若鶴酒造では、越後流と南部流、二つの地域の杜氏がそれぞれ蔵をもって技を競い合った時期があった。現杜氏の籠瀨(かごせ)さんはその両方をみて学び、自身の酒造りに活かしてきたという。

「新潟はきりっとすっきりした味。南部は濃い味。いってみれば真逆のやり方でつくるわけです」

富山には飲み口の軽い淡麗酒をつくる蔵元が多い中、それだけでは面白くない、と若鶴では最高級酒「若鶴」、辛口の定番酒「玄」に加えて、越後流と南部流の長所を掛け合わせた濃醇酒「苗加屋(のうかや)」をつくっている。

「苗加屋」はとにかく一口めの飲み応えがある。味が強く旨味があり濃厚、けれど後味はすっきり、後にのこらない。

日本酒の原材料は米と麹と水というシンプルなものながら、軽やか、すっきり、濃醇、と様々な味わいが生み出されるのは、麹と酵母など微生物の発酵を利用する複雑な製造工程に依る。米の品種や削り方、温度や湿度などの環境設定、麹の菌量、酵母の種類、濾過や火入れの仕方などの変数が限りなくあり、それらひとつひとつの違いが、香り、口あたり、旨味、のどごし、後味の違いを生む。

たとえば越後流の淡麗酒は麹をつくる際の菌量が少なく、もろみづくりに使う米は乾燥させる。南部流の濃醇酒は逆に菌量が多く、米を水分ある状態で仕込む。これらのやり方を掛け合わせることで、インパクトのある味わいと後味のキレが同居した酒ができるのだという。

また若鶴では富山の米で醸した酒を味わってほしいと、2001年に品種登録された富山県産の酒米「雄山錦」を使った酒造りも行っている。その雄山錦で醸した「若鶴 純米大吟醸 瑤雫(ようのしずく)40」は世界でもっとも権威あるブラインドテイスティング審査会のひとつ「インターナショナル・ワイン・チャレンジ 2019」SAKE部門でゴールド メダルを獲得した。

「味のふくらみでいうと山田錦ほどはない、でも独特のなんともいえない味がある雄山錦を活かして、いい方へもっていくのが酒造りの技で。富山の米でつくった酒が評価されたちゅうのは嬉しいですね」

酒造りは自然を相手にする仕事で、米が酒に変わることは微生物の働きなしでは起こりえない。12月~3月にかけての4ヶ月、一番大変な仕込みの時期は2時間以上目を離すことはできず、夜中も蔵人と交代で様子をみる。

「勢いありすぎるときは頭冷やせちゅうて温度下げるとか、酒の状態みてやったほうが、自分の思う酒になってくれるいうか。機械でも温度設定して何度になったら冷やすとか温めるとかできるんやけど、機械でやるのと見るのと速度ちゃうんですよね、その、温度がそこまで上がる前に世話したいんで。高い酒になるとちょっとよそ見してる間にごねる。ちょっくらやすませていうて仮眠とりますでしょう、2時間以上ほっとくとごねますんで」

お米の味も毎年変わる。年によって味が濃い、軽い、そうした違いがあるものを若鶴の酒として美味しくつくるのが杜氏の腕だという。香りも酵母の種類によって変わる。そして水にも味がある。

おそらく越後流の特徴が辛口淡麗、南部流が濃醇なのはその土地の水に起因する。ミネラル分の少ない軟水はすっきりとした味わいが向いていて、ミネラル分が多く水そのものの味が濃い硬水はこっくりとした味をつくりやすい。越後の水は軟水で、南部岩手の水はどちらかというと硬水なのだという。

今では水質管理技術が向上したおかげで水源の質に左右されることは少ないというが、味の方向性と水の質はもとは強く関係していただろう。庄川の伏流水もまた軟水で、昭和34年に南部杜氏が採用されるまで蔵を任されていたのは越後杜氏だった。

土地の環境と目に見えない微生物の働きが組み合わさり、結節点としてひとつの酒になる。

酒は芸術品のように形容されたり、醸造家は芸術家に例えられたりもするけれど、籠瀨さんは酒造りは子どもを育てるようなものだと言う。

「タンク一本一本で顔が全部違うんです。同じ仕込み、同じ麹、同じ酵母、同じ分量いれても同じ顔にならない、ちょっと違う顔になってできてくる。最初いいやつが最後までいい酒になるかっちゅうとそうでもない。途中でひねくれて機嫌そこねる奴もおりゃ、最初からやる気のない奴もおる、そういうのをどんなふうに最後まともにさせるか。それが酒造りのおもしろいところですね」

※参考:富山県 水の王国とやまweb WAKU WAKU 水NAVI

文章:籔谷智恵

INFORMATION

若鶴酒造株式会社

住所:富山県砺波市三郎丸208
電話:0763-37-8159(見学問合せ)
web:https://www.wakatsuru.co.jp
※見学は要予約

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